伊坂幸太郎さんの本「AX」を読みました。その感想文です。
Xで「図書館で目当ての本を借りる時、両隣の本を借りると素敵な出会いがある」といった内容のポストを見て、至極感銘を受けました。前回感想を書いたフィッシュストーリーの隣にあったので、一緒に借りてきました。
こちらの本は一冊でひとつの物語です。ただし章ごとに一区切りつくような構成で、気軽に一息つけるのがいいところ。
以下、ネタバレを含みます。
最強の殺し屋が最高に恐れる相手は妻だった。まぁよくこんな設定が思いつくものだ!!で、この妻は徹頭徹尾一般人ってのがまた面白い。殺し屋と妻の間には息子がいます。この息子も殺しの世界とは無縁の一般人。夫であり父である主人公兜は、妻と息子(とその他諸々)に殺し屋であることを隠しながら、殺し屋からの卒業を目指しています。
章が進むごとに時も進むので、息子は本の中で高校生から大人まで成長します。が、父へ思うことは基本「お袋に気を使いすぎ」。読者から見てもまったくそのとおりで、妻の不機嫌、妻との不和を異様に恐れています。ほぼ兜視点で書かれていますが、妻への気の使い方が取引先のお偉いさんのお嬢様ですか?みたいな。もう仕事よりよほど気を張っていないか?みたいな。私もこれくらい他人に気を遣って生きていかないといけない。
主人公が殺し屋ではありますが、物騒な話は4割、そうじゃない話が6割くらいかな。物騒な話もいわゆるR-18とかR18Gの描写はなく、依頼の話とか殺人の描写も嫌悪感が湧きませんでした。誰が誰にでもオススメしやすい伊坂作品のような気がします。
章ごとに一区切りつくと先述しましたが、きれいにまとまっていて満足感があります。そして最終章ではババーッと伏線回収や残された謎の解明がされますが、謎はともかく伏線は撒かれたことにすら気が付かないような隠し方で、回収された時のなるほど!は気持ちよかったです。一方で伏線の量はそんなに多くなかった気がしますが、あんまり多くても疲れるし私が気がついていないだけかも。
最大の謎、「なんで主人公はその妻と結婚したのか」もちゃんと明かされます。私はここが一番好きです。主人公の有能っぷりと妻への気の使いを読めば読むほど疑心暗鬼になりますが、謎が明かされた時にうるっと来ました。残された紙からも主人公の気持ちが想像できます。
あの時に、本当にただ好きになっただけなんだ、と。